軽便と言っても意味が判らない方も少なくないだろう。
ナロー(狭軌)の地方鉄道のことだ。
むしろ、私なんぞ古いから”ナロー”などと言う方がピンと来ない。
その昔、田舎を走っていた小さな鉄道、私の場合には静岡鉄道 駿遠線が何と言っても軽便そのものだった。
タイトルの写真は、チョット往時を偲ばせる写真が撮れたので。
最近は何かと所用で忙しく、鉄道模型に触れる機会が全く無かったのだが、やっと丸一日、空白が出来たので久々に模型で遊ぶことにした。
ホビールームにある固定式の英国型レイアウトは何時でも走らせられる状態にあるのだが、気持ちは何時も移り気で、のんびりとした鉄道模型を走らせたい気分だった。
それは食事に例えるなら、今日の昼めしは”そうめん”にでもしようか、という気分かな。
居間でテレビでも見ながら、リビングテーブルの上にNゲージの線路を組み立てて、軽便を走らせることにした。
トミックスから発売されている「ナローゲージ80猫屋線」は2編成を購入していた。
この模型はフリーランスではあるが、明らかに前述の静岡鉄道 駿遠線の車両を模した姿で、懐かしいものだ。
子供の頃、毎年夏休みには静岡の親戚の家に行っていて、その近くを走っていたのが、件の静岡鉄道の駿遠線だった。
とは言え、殆どの記憶はおぼろげで、断片的に思い浮かべるのみなのだが。
東海道線の藤枝駅に隣接する新藤枝駅から出発し、機関車直後の客車に乗り、その前面展望で、目の前の小さな機関車が築堤を喘ぐように上り、東海道線の上を跨ぐあたりの印象をハッキリと覚えている。
その機関車がDB60型と言い、その形から「蒙古の戦車」とニックネームがついているのを知ったのは私が50代になってからの話で、特にRの付いた後部のボンネット形状が特徴的で、「蒙古の戦車」がこんな形をしていたのかどうかは知らないが、それでも言い得て妙な気がする。(写真はHP「里山工房」より)
因みに、この機関車は蒸気機関車の下廻りを使い、トラックのエンジン/ミッションを搭載したもので、よって進行方向は限られ、終点では転車台で向きを変える、という特殊なロッド式のディーゼル機関車であった。
駿遠線は藤枝から太平洋沿いに吉田町、御前崎/浜岡を通り、袋井に至るまでの間64kmという、軽便としては日本最長路線であった。
また、川幅約1キロにもなる大井川の鉄橋をおっかなびっくり、ゆっくりと渡る姿は独特の迫力があった。
今、思えば軌間(線路幅)僅か762mmの車両が、この大きな川の、しかも木造の橋桁による鉄橋を渡ることは平常時でも不安のあることで、制限速度は10km/hだったようだし、強風の時には5km/hまで落としていたという。あるいは、大雨による大井川の増水時には沢山の材木が上流から流れて来るのが常で、さぞかし怖かったことだろう。
とは言え、この大井川で列車の転落事故は一度たりとも無かったのである。
主だった駅の駅舎はなかなか立派なものだが、古く埃っぽかったことも記憶にある。
そして、モータリゼーションの普及に伴い、静岡鉄道 駿遠線は1970年に全線が廃止された。
これもヒサシを付ければ駿遠線の気動車(ディーゼルカー)に、より似るのだが、作る手間が今はなかなか。
そんなこんなで、オモチャのようなトミックスの模型を走らせつつ、すっかり子供の頃の夏休みの思い出にひたってしまった。