何だ、この歪んだ写真は、と思われるかも知れない。
いや、しかし電柱(架線柱)を見て頂きたい、垂直に立っている。
つまり、カメラはちゃんと水平に写していて、列車の車体がこんなにも傾いているのである。
これが振り子式。
先日、長野に行く機会があった。
私の場合、鈴鹿から名古屋に行き、そこからは中央線(西線)で行くのが最も近い。
その中央線は木曽の山中を縦断して行くので景色は素晴らしいのだが、一方でカーブが多いので、昔から速度が上げられないのがネックの路線だった。
そこで、カーブの通過速度を上げる為に登場したのが振り子式車両で、カーブで車体を内側に傾けることにより遠心力を打ち消し、通過速度を上げるというもの。
初期の振り子は自然振り子式と言い、コロ軸を通じて遠心力を伝達して車体を傾斜させる方式のもので、ただ自然の応力を利用したものなのでカーブ通過後に揺り戻しがあり、その揺れにより、言わば船酔いのような、乗り物酔いで気分を悪くする人が多く出る欠点があった。
その後、色々改良されて、今の車両は制御付自然振り子方式と呼び、線路の位置情報を車両が検知して、カーブの手前から車体を徐々に傾けたり、カーブの後も傾斜をコントロールするもので、乗り心地を向上させ、揺り戻しを防いでいる。だから、もう全く酔わないし、とても快適になった。
それにしても、前で見ていると怖いほどカーブを飛ばして走れるし、それでも横Gは殆ど感じない。
写真は今回乗った「特急しなの」383系車両。
制御付き自然振り子装置に自己操舵台車(何とステアする)も備え、カーブでの高速化を図っている。
車体は軽量なステンレス製で、高速化に備えた低重心の為にかなり低い。この写真では暗くて見えないが、車体側面の裾は振り子で大きく傾いた時の張り出しを防ぐため、内側に大きく絞られている。
車に例えるなら、ワインディングロードを得意とする、軽量スポーツカーのような車両である。(名古屋駅にて)
車内放送を聞くまでは知らなかったが、この景色「日本3大車窓のひとつ、姨捨(おばすて)車窓」とのこと。
中央に千曲川が流れる善光寺平を見下ろすこの景色は素晴らしく、以前にも、この横(後ろ側)を走る高速道路から見たことがあり感動したのだが、何度見ても絶景である。
最後は、写真が列車の揺れでピントが甘くなり恐縮だが、帰路に長野駅で買った駅弁、あの有名な「峠の釜めし」。
信越本線横川駅の荻野屋のもので、長野駅で「峠の釜めし、最後のひとつです!」の声に、即、反応してしまい買ったもの。
それにしても、器は蓋を含めてちゃんと焼物(益子焼)だし、料理はそれぞれの食材が(ごはんの上に、鶏肉・タケノコ・ゴボウささがき・椎茸・栗・アンズ・うずらの卵に紅生姜とグリーンピースを載せたもの)きちんと手を込めて作られているのが伝わってくる。
冬至はとっくに過ぎたとはいえ、まだ冬のさなか。日が暮れるのが早く、5時に長野駅を出た「特急しなの」は、6時を過ぎると周りの景色も見えにくくなる。
食事を摂る頃には窓ガラスは鏡のように車内を写し、せっかくの木曽路の景色を見ながら、という訳にもいかなかった。