あくまでも私見だが、世界の蒸気機関車で最も美しいのはドイツの「バーデン大公国邦有鉄道Ivh型」(写真奥)だと思う。
その一方で、最も不細工な蒸気機関車はというとイギリスで「醜いアヒルの子」なるニックネームを持つイギリス「サザン鉄道 Class Q1」(写真手前)だと思う。
嘘じゃない、下の本はイギリスの「HORNBY magazine」だが、ご覧のように「UGLY DUCKLING」(醜いアヒルの子)というタイトルで、このQ1が紹介されている。
もとより、醜いものには興味を持たない方なのだが、何故かQ1は気になり手に入れてしまった。
その形を見ると、立派なテンダー型機関車(石炭車を牽く機関車)なのに、前後輪が無く動輪の3軸のみの車輪配置0-6-0という、寸詰まりでチンチクリンな機関車のプロフィールだ。
前方ボイラーの下に見える2気筒のインナーシリンダーなのでバルブギアやメインロッドが外に出ず、見掛けは1本のロッドが見えるだけでオモチャの機関車のように殺風景な足回りである。
加えて殺風景なのはランボード(ボイラー横の人の歩けるステップ)が無く、ボイラーのすぐ下に車輪が剥き出しで、間抜けな感じは否めない。
ボイラーが四角いのも変わっていれば、3段階に太さが変わるのも独特で、「醜いアヒルの子」と共に「コーヒーポット」なるニックネームも頂いている。
この製品はHornby製で、今回はアナログ仕様のままで「メディカルアート社」から購入した。税抜きで16,000円だった。
写真を拡大して頂くと判るが、いつものようにHornbyの製品はキャビン内がしっかり作られている。
また同様に、やはり走行はスムーズでモーター音やギヤの音も殆ど無くスルスルと走る。
車体が短いこともあり、360Rを難なく通過する。
さて、こうして外見上はブサイクで味気ない機関車なのだが、何故、興味を持つようになったのかというと、この機関車の成り立ちなどを知ったあたりからだ。
時は第二次世界大戦中の話で、ロンドンから南に路線を持つサザン鉄道は、最前線たるドーバー海峡方面への貨物輸送が戦前の6倍にも跳ね上がり、頻繁且つ重要になった。
そこで強力な貨物輸送用の機関車が必要になったのだが、戦時中の物資不足の中にあり、しかしサザン鉄道の主任技師で天才的設計者と言われるオリバー・ブレイトは、その構造から無駄を一切省き、そして最小限の材料で、しかし英国で最も強力な牽引力を持つ、このClassQ1を作り上げたのである。
40両のClass Q1によりサザン鉄道の貨物輸送能力は大幅に改善され、軍需物資や兵士の輸送に大きく貢献し、それは偉業であったとさえ言われた。
という、不細工には意味があり、不細工だけど実は名機だったのだ。
そのあたりで私も興味を持った訳だ、ほんと見かけは不細工だけど。
ということは例えば、
前述のIvhをスマートで賢明な「シャーロック・ホームズ」に例えたとすると、さしずめClassQ1は「コロンボ刑事」ということになるのかな。
コロンボ刑事とくれば、ヨレヨレのコートに汚れた車(プジョー403カブリオ)がトレードマークだ、だから味がある。
ということで、Q1も新車の状態ではなくウェザリングで汚れを表現すべきだな、と今回はパステルによるウェザリングを施してみた。
ウェザリングは海外の本ではその手法を含め良く掲載される。私は前出の「HORNBY magazine」(後ろの本)の写真を参考に汚れを表現してみた。
流石にウェザリングをすると実感味が出てくる。
冒頭の写真と比べて頂くと判るが、綺麗過ぎて、まるでオモチャのようなQ1が、如何にも力強く貨車を牽いている逞しい機関車にも見えて来ようと言うものだ。
「醜いアヒルの子」はアンデルセン童話の引用で、最初は醜くとも最後は立派になる、という意味がある・・・まさにQ1
如何でしたか、この不細工なClassQ1。
少しは興味を持てました?
PS:前出の実物写真を真似て写してみた。
というのも偶然、私のレイアウトの駅と構成、線路配置が似ているのでモノクロ写真風にして一寸悪戯をしてみた次第。