今回のイギリス鉄道旅行は昔の4大鉄道時代(Big Four)の路線を訪ねる旅でもあったのだが、その4つ目の最後となるのはSouthern Railway(SR)だ。
いきなり廃駅の写真で恐縮だが、この駅はフォークストン港駅(Folkestone Harbour)の跡で、ユーロトンネルが出来て使われなくなり、廃駅となったものだ。
ホテルの窓から眺めた景色、鉄道は中ほどの鉄橋を渡り、その右側のカーブした白い部分が冒頭のフォークストン港駅 になる。
そして後ろにはドーバー海峡が広がるが、左手に少し見える丘のあたりがドーバーになる。
ここを訪ねたのは、この駅が世界で初めて鉄道と船を連携して走らせた歴史的な駅であり、SRではロンドンからイスタンブールに向かう有名な「オリエント急行」や、ロンドンからパリに行く「ゴールデンアロー」が、この駅から船に乗継ぎフランスのカレーへと向かっていた。
廃駅となった今の姿を見つめつつ、華やかだったその頃を想像した。
イギリス南西部のトーキーからロンドンを経由してフォークストンに向ったのだが、グレートウェスタン鉄道の車中、車掌の検札があり、ブリットレイルパスを見せると「これから何処に行くのか?」と聞くので「ロンドンからドーバー経由でフォークストンに」と答えると、「ドーバー経由はダメだ、ドーバーとフォークストン間で崖崩れがあって鉄道はストップしているので、ロンドンのセントパンクラス駅から直接フォークストンに行くように」とのことだった。
いや、昔のSRのメインラインはロンドンのヴィクトリア駅からドーバーに向かう路線であり、そこを辿りたいし、セントパンクラスから南に向かうのは「ユーロスター」の為に出来た高速新路線でもあり、殆どSRにならないのだが、仕方が無い。
これがセントパンクラス駅で青い車両だが、「あれ、日立だ」テレビで散々見ているからすぐに判った。おおっ「頑張れニッポン!」これに乗るのも良い事だ、と大納得をした。因みに左にはユーロスターが見える。
日立の印象?うむ。
例えば車は国によって全く個性が異なるものだが、それほどでは無いにせよ、このClass395も、これまで色々乗ってきた英国の鉄道車両とはどこか違う、やはり何となく日本の雰囲気を感じてしまうものがあるのが不思議だ。快適で、清潔で、良く走る感じなのだが、何か深みというか雰囲気がイマイチな気がしましたね。
私にとってフォークストンは今回の旅行の最後の夜となるので、少し張りこんで港に隣接するレストランに向かった。無論、シーフードを食べる為に。
今は便利なもので、旅行前からインターネットで検索出来、今回の全てのホテル、そして、こうしたレストランも事前に場所や雰囲気、メニューに至るまで知った上で行けるものだ。
ドーバー海峡沿いだからと舌平目の「ドーバーソール」を意気込んで頼んだが、周りを見ると、誰も魚をとってはいなかった。ま、ドーバー海峡の訪問記念にと、一人悦に入った次第。
翌朝、フォークストンの駅で「ドーバーまでバスで行って、ドーバーからヴィクトリアに行きたい」と駅の案内で言うと「止めておけ、時間がかかり過ぎる!」と制止されたが「サザンレイルの路線に乗りたいから」と言うと「それなら、ここからAshford Internationalまで行き、そこからヴィクトリア行きに乗れば良い」とのことなので従うことにした。
実際、ドーバーからロンドン・ヴィクトリアへの路線は鈍行列車だけのようで、バスを別にしても、鉄道だけでも2時間程かかっていて、いくら昔のSRメイン路線とは言えども鈍行は無いわな、と。
写真は、アシュフォード・インターナショナルからヴィクトリアに向かった列車(快速:殆どの駅は止まらないので)のClass375型電車。
どうも今のイギリス南東部(旧SR)路線の主力車種がこのClass375のようで色違いも含めて数多く見受けられた。
そして車内は写真のように、綺麗でとても快適である。
尚、手前はファースト・クラスでドアから先がスタンダード席。この列車は二人掛けになっていたが、列車よっては通勤用として2人/3人掛けもあるようだ。
いやー、のどかな景色だー。
というかイギリスのどこにでもある景色だ。
SRのメインラインを走っているのか否かは判らないが、違っていても、おそらく、これと同じような景色を見るのだろうし、まあいいか。
車窓の景色を邪魔するものが無いと思ったら、電化されていても架線柱が無いからで、第三軌条から集電するSR路線だからだ。電車にパンタグラフは無く、写真のように台車の横に集電シューがあり、線路横の第三軌条から集電する地下鉄によくある方式だ。
ロンドンへの途中、このような少し古く、感じの良い雰囲気を持つ駅がいくつも見られた。
SRはロンドン以南という4大鉄道では最も狭い範囲であり、従って、短い路線長を保有していたのではあるが、しかし居住が多い地域の為に、ビッグ4の中で最も利益を上げていた鉄道であったという。
これらの駅も当時から多くの人々が利用していたのだろう。
ヴィクトリアに到着したClass375、大きなアーチが立派で美しい。
その昔、ヨーロッパからイギリスに到着した人々の玄関口として立派な作りにしたものだろう。
今回の旅の最後のターミナルとしても相応しかったと思えた。
隣のホームにはClass465が入ってきた。白い塗色と正面2枚窓のスマートな車両である。
正直、これまでイギリスの車両は不細工なデザインが多いと思ってきたのだが、私の乗ったClass375も良いデザインだし、また、これまでのコラムで紹介してきた車両以外にも、最近の車両はカッコ良く、デザイン性の高いものが多々あることを知った。
荘厳なヴィクトリアの駅を表から見る予定だったが、残念ながら工事中だった。
それでも見えている半分から上の部分でも、何とも立派な建造物であり、バッキンガム宮殿やビッグベンにも近い、このヴィクトリア駅はイギリスを代表する駅の姿を見せる。
ということで、私のイギリス鉄道旅(4大鉄道を訪ねて)を終了したのだが、印象に残るのは、「イギリスの鉄道旅は非常に快適である」ということだ。
帰国後、間もなく新幹線に乗ったが、速く移動できることは素晴らしいが「移動する為の乗り物」という感覚が強く、一方、イギリスの鉄道は「鉄道で快適に旅行する」という感じになれる。
また、旅先の各地のホテルやレストランでは、とてもフレンドリーな対応に嬉しい思いをした。
日本の旅館の「おもてなし」は誠に素晴らしいものだが、イギリスのフレンドリーに、とても親しく接して頂けることもまた、心温まるものだった。