サーキットを走るスポーツカーの後姿の写真。見慣れぬ車、何だろう、と思われた方も少なくないのでは、と思う。
あるいは、MOOK欄のVEMAC RD180のテストドライブを読んで頂き、理解された方もいるだろう。
この車は、これまで私が勤めていた東京アールアンドデーが作ったVEMAC(ヴィーマック)RD180という車である。一から設計した全くのオリジナルなスポーツカーであり、エンジンはインテグラの1800ccを搭載(現行はRD200で2000cc搭載)している。
この車の元々の発想はカドウェルという2座席レーシングカーに始まる。
カドウェルは1994年に発売した車で、雑誌に広告を載せると1日に何本もの電話が入った。サーキットしか走れないレーシングカーではあるが、その外見から、てっきりロードゴーイングカーと思われ、多くの方が問い合せて来られたのだ。
まあ、カドウェル自体、ネオ・ヒストリック(現代版ヒストリック)という新しいカテゴリーのレースの為に作った車で、1960年代頃の車をイメージしたものである。因みに、当時はタルガフローリオなど公道レースも開催されていて、その頃の車の形をしていることからも、公道が走れる車と思われるのも無理はないのかも知れない。
その時「そうか、この車にナンバーが付けば売れるんだ」と、皮算用したのだが、まずは内に秘めておいた。
数年が経ち、カドウェルのロードバージョン化の提案をした。元々、東京アールアンドデーは自動車を中心とした研究開発を受託する会社で、表には出ていないが、色々な自動車メーカーの車を開発してきている。
そして、カドウェルのロードバージョン化から進展した自社のスポーツカーを開発し、販売することとなり、会社を挙げてのプロジェクトが立ち上がったのである。
それにしても、ナンバーの付く車を作ること、そして車を販売する、ということは大変なことで、我々、レース屋からは想像もつかないほど色々なことがあり、イギリスで生産することを含め、とても大きなプロジェクトとあいなったのである。
数年が経ち、その1号車がイギリスで出来て、その走行テストに行ったのがMOOKにある記事なのである。
話が戻るが、カドウェルというレーシングカーの名称はイギリスのローカルサーキットであるカドウェルパークから頂いたものである。私はそこで一度、F3レースをした経験を持つが、緑の拡がる自然の中にあるサーキットで、まともなピットも無ければ、パドックは林の中の未舗装のまま、という典型的なローカルサーキットなのだが、語呂も良く、気に入ってつけた名前である。
VEMACのサーキット走行テストを、そのカドウェルパークでやることになったのも、VEMACがカドウェルから派生した車であることを考慮した粋な計らいでもあった。
思い出すと、私が参加したF3レースの時、このカドウェルパークのレースでは、いつもにも増して不調で、ついに周回遅れとなったのだが、そのトップを走ってきたアンドレア・デ・チェザリスとラインが交差してしまい、チェザリスをコースから押し出す失態を演じてしまった。それでも彼は優勝したが、レース後、チェザリスが私のところに来て、私は激しい抗議を受けた。本当は、そんな惨めな思い出のあるサーキットではあるのだが、時が経つと、そうした過去をも懐かしく感じさせてくれる。
時間は時に、とても有難いものである。