なんと言えばいいのだろう。
シトロエン2CVの印象を、いや、その素晴らしい印象を。
この2CVのオーナーに我が家を訪ねて頂いた時のこと。
同じ鉄道模型クラブの方で、先ずは私の新しいレイアウトを見に来られたのであるが、同時に鈴鹿サーキットを案内した。
その我が家からサーキットへの往復の路、2CVを運転させて頂いた。
何と言っても、独特のデザインと存在感がたまらないのだが、
もともと2CVは1940年代のフランスで、自動車の普及が遅れていた地方の農民向けに開発された車である。
安価な車であること、多くの農作物が積めること、籠一杯の卵が割れない乗り心地を備えること、低燃費であること(車が軽いこと)、あるいは運転がやさしいこと、などといった開発テーマがあったとされ、それらが見事なまでに、そして実に個性豊に具現化されている。
運転席。このパイプと布クッションによるシートを見ただけでも前述のテーマに対する答えが見えようというもの。この椅子、実は座り心地がとても良くて快適なのである。流石は椅子文化の歴史の違いを感じてしまう。
運転操作は3つのペダルとマニュアルで4速ギアを操作する以前の普通の車そのもので、多少の慣れは必要だが、特に違和感のあるものではない。
シフトリンケージがシンプルなレイアウトでミッションに入っている為にシフト感覚がリニアでシンクロメッシュも有効に働き、気持ち良く入る。
ハンドルは大きく切る時には重たいが、これはキャスター角の大きさから来るもので、この角度の大きさこそが直進安定性を生み出す大切なもの。ハンドルなんかヨーロッパ流に送りハンドルで切れば良いのだ。それより、フランスの広い大地の遥かに続く道を、安定して走れることが大切なのである。
サスペンションはフロント/リーディングアーム、リア/トレーリングアーム方式で、要は1本の太いアームが足を支えている。そして肝心の乗り心地は素晴らしく良い。不正路面を越える時も突き上げがない。そうか、これが「猫足」の始まりなのか、と思わせる。
運転に戻ると、ペダル類もごく普通に操作出来るし、特に運転するのに特殊な技術や知識は必要ないことに少し驚いた。
というのも、以前にDS20に乗った時には、予備知識が無いと走れるものではなく、同じシトロエンだけに少し構えていたからである。
エンジンは空冷水平対向2気筒OHV、602ccで30馬力程度とのこと。
600kgにも満たないという軽い車体からなのか、あるいはエンジンが意外とトルクフルなのか、たった30馬力とは思えない力がある。無論、現代の車のように高加速をするわけでは無いが、のどかなフランスの郊外を走るには充分だろう。
今回、大阪から訪問頂いたのだが、新名神を80~90km/hでクルーズされたとのことで、私も80km/hまで出してみたが、まだ全然余裕の感じがあった。
そうした性能面は別にして、
大人4人が無理なく乗れる室内スペース、キャンバストップでオープンエアが楽しめる、リアトランクは、実は窓ガラスの上の部分にヒンジがあり、キャンバスを利用して大きく開けられる、つまり既にこの時代にハッチバック方式を考慮していたのである。
あるいは、写真のようにヘッドライトは左右に跨る白いパイプに付けられているが、そのパイプを室内からワイヤーで回転させる装置がこれで、ヘッドライトの上下をマニュアルで変えられる仕組みになっている。
こうしてみると、この車、色々な部分が誠に合理的に出来ていること感心するばかりだ。
このことは実は、農家の為だけでなく、ファミリーカーとして最適な要素を持った車だった訳で、多くの人に支持されることになり、言わばフランスの国民車的な位置づけともなり、商業的に大きな成功を収めた、という話である。
この車、乗った後に余韻のようなものがあるのは何だろう。
まるでフランス映画を見た後のように、余韻を持たせる不思議な感覚が残った。