写真のフランク・ロイド・ライトを知る方は少なくないだろう。
アメリカの建築家で近代建築の三大巨匠とも呼ばれ、日本では大正時代に建てられた帝国ホテルの建築家として有名である。
これが、その帝国ホテルの中央玄関部で、今は愛知県の明治村に保存されている。
先日訪れることが出来、ゆっくり見ることが出来た。
この帝国ホテルは大正12年の8月に4年間の大工事を経て完成したものだが、何と、9月1日の披露式の日に関東大震災が発生した。周囲の建物が倒壊、炎上する中、この建物は非常に被害が少なかった、というものだ。
中に入ると、これまでに見たことの無い造形、デザインに圧倒される。
石や煉瓦がゴツゴツと露出する構造は、見た目にはかえって地震で崩れそうな印象を受けてしまう。
写真はメインの柱なのだが、白い大谷石には幾何学模様の彫刻が施され、常滑焼によるレンガにも櫛目が入り、そして柱の間からは電灯の明かりが漏れる。全く不思議な構造の柱で、どこでそんな強度を得ているのだろうと思うほど。
幾何学模様は部分的な彫刻だけでなく、建物の内部全てが幾何学模様を成している。
昨年のスペイン旅行では、イスラム建築の華麗で繊細な幾何学模様の素晴らしさに感嘆したが、同じ幾何学模様でも、この帝国ホテルは全く趣が異なり、造作がとても大きく、立体的な表現による。
そんな石や煉瓦に囲まれた空間であるが、不思議なことに心理的に落ち着くのである。
何となく岩の中に居るような印象を持ったのだが、どうも、フランク・ロイド・ライトは洞窟をイメージしていたと言うから、あながち間違った印象でも無かったようだ。
やはり、フランク・ロイド・ライトの作品で象徴的なのは”滝の家”「落水荘」であろう。
川を跨ぎ、テラスを突き出した建物には、新しい工法(カンチレバー/片持梁)が用いられているとあるが、工業デザインの醍醐味は、単なるデザインセンスだけでなく、居住性や強度や環境など、多くのむつかしい要件をクリアした上で芸術性が表現されることだろう。そのあたりは車のデザインに通じるものがあるのではと思う。
いずれにしても、滝の上に家を建ててしまうという発想は想像もつかない。
さて、明治村は名古屋の北、犬山市の美しい丘陵地にある。
桜の花の開花も少し遅いので、訪れた時は桜の散る頃だったにもかかわらず、まだ満開に近く、情緒ある昔の建築物や、美しい景色を見ながら、遅めの花見を楽しむことが出来た。